会計・契約・労務

電子契約サービスを選ぶときに確認すること

電子契約は自社だけで完結しない仕組みのため、料金や機能を比べる前に相手方が受け入れられるかを確かめる必要があります。署名方式の違い、紙と併用する期間の台帳の作り方、契約前に見る課金単位と解約後のデータの扱いまでを整理しました。

公開 更新 カテゴリ 会計・契約・労務 読了目安 約8分

この記事の適用範囲

対象
契約書の電子化を検討している小規模事業者
読了後の状態
自社の契約の性質に合う方式を選び、取引先との運用まで想定できる状態
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契約書を1通交わすのに、印刷して製本し、押印して郵送し、返送を待ちます。相手側でも同じ工程が動くので、締結までに2週間かかることがあります。着手日は決まっているのに契約書が間に合わず、先に作業を始めてしまう。少人数の会社ほど、この状態が常態になりがちです。

そこで電子契約サービスを調べ始めます。ところが、料金や機能をどれだけ見比べても結論が出ません。電子契約は自社だけで完結する仕組みではないからです。相手が署名操作をしなければ契約は成立しませんし、相手から「うちは紙でお願いします」と返ってくれば、そこで止まります。

選定の最初の作業は、サービスの比較ではなく、自社の契約と相手方の棚卸しです。この記事では、その順番で確認する項目を並べます。

導入できるかどうかを決めるのは相手方の事情です

契約は双方の合意で成立します。片側だけが電子化しても、もう片側が応じられなければ、そのつど紙に戻ります。まず確認するのは、自社の契約相手が電子での締結を受け入れられるかどうかです。

相手が断る理由は、だいたい次のいずれかに分かれます。社内規程で押印が定められている場合、決裁者が電子での操作に慣れていない場合、相手も電子契約を使っているが自社とは別のサービスである場合、そして原本を紙で保管する運用が業務上定着している場合です。

この4つは、こちらから働きかけたときの動きやすさが違います。規程が理由なら、規程の改訂を待つことになるので短期では動きません。不慣れが理由なら、受信側の操作が軽い方式を選ぶだけで通ることがあります。相手が別のサービスを使っているなら、こちらが受信側として参加すれば済み、自社で契約する必要が下がる場合もあります。

確認の手順は難しくありません。直近1年で契約書をやりとりした相手を件数の多い順に並べ、上位3〜5社の担当者に聞きます。聞き方は「電子契約を導入したいのですが」ではなく、「そちらでは電子での契約締結は可能でしょうか。使われているサービスがあれば教えてください」とします。前者だと相手に判断を求めることになり、後者なら現状を答えてもらうだけで済みます。

当事者型と立会人型では、相手にかかる手間が変わります

電子契約の署名方式は、大きく2つに分かれます。この違いは機能の差ではなく、誰がどれだけ準備するかの差として実務に出ます。

当事者型は、契約する本人または法人の名義で発行された電子証明書を使って署名する方式です。証明書を得るには本人確認の手続きが必要で、しかもそれを双方が済ませていないと締結できません。

立会人型(事業者署名型)は、サービス提供事業者の名義で電子署名を付し、署名する人の本人性はメールアドレスへの到達やアクセスコードなどで確かめる方式です。受信側は届いたメールから操作すればよく、事前の準備を求めないものが多くなります。

当事者型 立会人型(事業者署名型) 紙と押印
相手方に必要な準備 相手にも証明書の取得を求めることになる 届いたメールから操作するだけで済むものが多い 準備は不要だが、押印と返送の工数がかかる
締結までの流れ 証明書の発行手続きの分だけ前段が長い 送信したその日に返ってくることがある 郵送の往復が2回入る
社内で決めること 本人確認と証明書の管理を誰が担うか 誰に送信権限を持たせるか、承認をどこに挟むか 押印申請の経路と印章の管理
つまずきやすい点 相手に同じ手当を求めるため、断られやすい 署名者のメールアドレスが個人単位で管理されているか 原本の所在が分からなくなる
向いている場面 相手が限られ、厳格な手続きが求められる契約 相手が多く、繰り返し発生する契約 相手方が電子を受け入れられない期間

どちらの方式が法的にどう位置づけられるか、また自社の契約に必要な水準がどこにあるかは、制度の解釈に関わります。ここは公的機関が出している最新の公開情報と、顧問の専門家への確認で押さえてください。サービス側の説明資料だけを根拠にしないほうが安全です。

契約の種類によって、電子化して効くものと効かないものがあります

全部の契約を一度に電子化しようとすると、例外的な契約の扱いを考えるところで止まります。先に契約書の棚卸しをして、効果が出る種類から移します。

棚卸しは、直近1年分の契約書を種類別に数えるだけです。種類・年間件数・相手方の社数・締結までにかかった日数の4項目を並べると、上位2〜3種類で全体の大半を占めていることが分かります。

秘密保持契約・簡易な覚書 基本契約・年度更新の契約 個別の発注・注文請書 労務や業法が関わる書面
発生の仕方 新規の相手ごとに単発で出る 年に数件だが、相手方の決裁が重い 毎月まとまった件数が出る 入退社や特定の取引局面ごと
電子化で減るもの 郵送の往復と、そのための待ち時間 件数が少ないため短縮効果は限定的 件数に比例して事務が減る 交付した記録が残るようになる
詰まりやすい点 相手が毎回違うので、受信側の負担が軽い方式でないと回らない 相手方の規程に合わせざるを得ない 送信できる人が1人に集中する 書面での交付や本人の同意が要件になる場合がある
先に確認すること 相手方の担当者のメールアドレスが個人宛か 相手が既に別のサービスを使っていないか 課金が送信単位か締結単位か 所管する官庁の公式情報で要件を確認する

労務関係の書面や、業法で書面の交付が定められている取引は、電子化にあたって別の要件がかかることがあります。自社の契約がそこに当たるかどうかは、種類ごとに確認してから対象に入れてください。判断がつかないものは、いったん対象外にして紙のまま残すほうが、無理に含めるより安全です。

対象を絞らずに全社で一斉に切り替えようとしたときに何が起きるかは、ITツールの導入で失敗する会社に共通することで構造として扱っています。

紙と電子が並走する期間の管理を先に決めます

相手方の事情で紙のまま残る契約は必ず出ます。並走期間は一時的なものではなく、数年続くと考えて設計してください。

このとき起きやすいのが、契約の一覧が2つに割れる状態です。電子契約サービスの管理画面には電子で締結したものしか載らず、紙の契約はキャビネットの中にあります。どちらか片方だけを見ていると、更新期限の見落としが起きます。

対処は、台帳を1つにすることです。表計算ソフトでも構わないので、契約名・相手方・締結日・有効期限と自動更新の有無・締結方式・原本の所在の6列を持つ一覧を作り、電子で締結したものも必ずそこに1行足します。

「原本の所在」の列を入れておくと、後から効いてきます。電子ならサービス名とフォルダ名、紙ならファイルの場所を書きます。この列がないと、数年後に「あの契約書はどちらで交わしたか」を全員が探すことになります。

更新期限の通知も、サービスの機能ではなく台帳側で持ってください。サービスを解約した時点で通知も止まるため、そこに依存していると乗り換えのときに管理が切れます。

保存の要件については、電子で受け取った書類の保存方法に関する制度があります。要件は改正されることがあるため、自社が満たすべき条件は公式情報で確認してから運用を固めてください。また、紙の契約書に貼っていた収入印紙の扱いが電子化でどうなるかは、契約の種類ごとに判断が分かれます。ここは所轄の税務署か顧問税理士に確認してください。

締結済みの契約書は、事業を続けるうえで失うと困る書類の代表です。どこまで守るかの考え方は、小規模企業に必要なバックアップはどこまでかで、復旧の目標から逆算する形で整理しています。

契約前に確認する項目は課金単位と解約後の扱いです

機能一覧よりも、次の項目を先に確認してください。導入後に効いてくるのはこちらです。

  • 課金の単位:送信1件ごとに数えるのか、締結1件ごとなのか。相手方の署名者が2人いる場合に何件と数えられるか。内容を差し戻して再送したときに再度課金されるか。月内の未使用分が翌月に繰り越されるかどうかで、繁閑の差が大きい会社では実質の負担がかなり変わります。
  • アカウントの数え方:送信する人だけでなく、過去の契約を検索したい経理担当者や顧問税理士にもアカウントが要るのか。閲覧だけの権限が用意されているか、それが別料金か。
  • 解約後の文書の扱い:解約したときに締結済みの文書がどうなるか。一括で書き出せるか、書き出したファイルに署名の証跡が含まれるか。ここを確認せずに契約すると、乗り換えるときに全件を1つずつ保存する作業が発生します。
  • 権限と承認:誰が送信できるか。送信前に上長の確認を挟む仕組みがあるか。
  • 相手方に求めるもの:受信側にアカウント登録を求める仕様かどうか。ここは相手の受け入れやすさに直結します。

料金以外に契約書のどこを読むべきかという観点は、分野を問わず共通します。小規模企業のITツールの選び方で、最低利用期間やデータの持ち出しを含めた条項の読み方をまとめています。

導入後に詰まるのは機能ではなく運用です

サービスの機能が足りずに困ることは、実際にはあまり起きません。止まるのは運用の側です。

送信できる人を1人にしたまま運用を始めると、その人が休んだ日に契約が動きません。権限を絞りたい気持ちは分かりますが、送信できる人は最低2人にして、片方は普段使わなくても手順を知っている状態にしておきます。

宛先の間違いもよく起きます。社名は合っているが担当者が退職している、あるいは代表アドレス宛に送ったために誰も開かない、という形です。送信前に相手方の担当者名と個人宛のアドレスを確認する一手間を、手順に組み込んでください。

紙の稟議をそのまま画面に移してしまい、かえって締結が遅くなることもあります。承認の段数は、電子化を機に見直す対象です。

締結後のファイルが、送信した人のアカウントの中にしか存在しない状態も避けてください。共有フォルダに証跡付きのファイルを保存する運用まで決めて、はじめて完了です。担当者が1人しかいない会社では特に効いてきます。この観点は、ひとり法人に本当に必要なITツールはどれかでも、自分が倒れたときに誰も触れない状態を避けるという形で扱っています。

次にやること

まず、直近1年分の契約書を種類別に数えます。1時間ほどで終わり、この一覧がないまま比較を始めると判断の材料がありません。

次に、取引件数の多い3社に、電子での契約締結が可能か、既に使っているサービスがあるかを聞きます。ここで「相手も同じサービスを使っている」ことが分かれば、選択肢は一気に絞られます。

そのうえで、1つの契約類型だけを対象に試します。試用期間があるサービスなら、社内だけで完結するテストではなく、必ず外部の相手と1往復させてください。受信側の画面で何が起きるかは、送信側からは見えません。相手が迷った箇所が、そのまま導入後の問い合わせになります。

最後に、やめるときの条件を先に書いておきます。どの状態になったら紙に戻すのか、そのとき締結済みの文書をどう持ち出すのか。この2つを決めてから契約すると、合わなかったときの損失が小さく収まります。