比較ガイド
法人向けレンタルサーバーの選び方|業務要件から決める
法人のサーバー選定は、スペック表の比較ではなく「止まったときに誰が困るか」から決まります。要件の言語化、共用・VPS・管理込み・制作会社一括の型の違い、契約前に確認する運用条件、名義と移転の実務まで整理しています。
この記事の適用範囲
- 対象
- 自社サイトやメールのためにレンタルサーバーを選定・移転する小規模事業者
- 読了後の状態
- 自社の要件を言語化し、サーバーの型を選べる状態
自社サイトが表示されないという連絡が取引先から入ったとき、最初にやることは復旧ではありません。どこと契約しているかを調べることです。契約書が見つからず、支払いは前任者の個人カード、管理画面のログイン情報は制作会社しか知らない。この状態で止まると、原因の切り分けに入る前に半日が消えます。
レンタルサーバーの選定は、こうなったときに動けるかどうかで結果が分かれます。ところが比較の入口はたいていスペック表で、ディスク容量や転送量、対応するプログラム言語のバージョンが並びます。小規模な会社のサイトでは、その数字の差が問題になる場面はほとんど来ません。先に効いてくるのは、止まったときに誰が何をするかという運用側の条件です。
個別のサービス名と料金は扱いません。要件の決め方、型ごとの違い、契約前に見る項目、名義と乗り換えの実務を順に整理します。
停止したときの影響から要件を決める
要件を決めずに比較表を眺めると、上位のプランほど安心に見えます。ただ、上位プランで解決するのは処理能力の不足だけです。小規模な会社のサイトで実際に起きるのは、アクセス集中による重さよりも、設定の誤り、証明書の期限切れ、契約更新の失敗、社内の誰も触り方を知らないという状態です。処理能力を上げても、これらは1つも減りません。
そこで順序を逆にします。サーバーが丸1日止まったときに自社で何が起きるかを先に書き出し、そこから条件を引き出します。同じ「会社のサイト」でも、何が乗っているかで許容できる停止時間が変わります。
| 会社案内が中心 | 問い合わせ・集客が乗っている | 受注・予約が乗っている | |
|---|---|---|---|
| 1日止まると起きること | 検索から来た人が離脱する。取引先から指摘が入ることがある | 問い合わせが数件失われ、その間の広告費が無駄になる | 売上が直接止まり、既存顧客の対応も滞る |
| 許容できる停止時間 | 半日から1日 | 数時間 | 数十分 |
| バックアップに求めるもの | 元の状態に戻せればよい | フォームの送信記録を含めて戻せること | 直前の状態まで戻せて、復旧手順が文書になっていること |
| サポートに求めるもの | メール窓口で足りる | 平日の日中に連絡が取れる | 障害の状況が随時公開され、緊急時の連絡経路がある |
3つのうちどれに当たるかで、その後の判断がすべて変わります。会社案内が中心なら、選定に何日もかける価値はありません。受注が乗っているなら、月額の差より復旧の道筋が確保されているかを先に見ます。
メールを同じサーバーで受けている場合は、判断を1段階上げてください。サイトが止まっても営業活動は続けられますが、メールが止まると受発注が止まります。サイトの停止は気づいた人が知らせてくれますが、届かなかったメールは誰も教えてくれません。
要件は4つの質問に答えると言語化できる
比較を始める前に、次の4つに答えを書きます。書けない質問があるなら、それはサーバーの話ではなく事業側で決まっていない事柄です。そちらを先に決めたほうが、結果的に早く終わります。
1. サイトに何が乗っているか
前章の3類型のどれかを選びます。将来の予定ではなく、いまの状態で判断してください。「いずれ受注も載せたい」は、この質問の答えにはなりません。
2. メールを同じサーバーに置くか
サーバー付属のメール機能を使えば契約が1本で済み、費用も抑えられます。その代わり、サイト側の障害がメールに波及します。メールを別のサービスに分けておくと、サーバーを乗り換えるときにメールを止めずに済みます。アドレスの設計や移行の手順は独自ドメインのメールを導入する手順で扱っています。
3. アクセスの山はどこで来るか
普段の数字ではなく、山が来る条件で考えます。展示会への出展、プレスリリースの配信、メディアへの掲載、採用の応募受付。小規模な会社では、山は年に数回、しかも予告なく来ます。見るべきは同時アクセス数の上限という数字ではなく、上限に当たったときに何が起きるかです。表示が遅くなるだけなのか、エラー画面になるのか。上位プランへ即日で切り替えられるのか、申し込みから数日かかるのか。数日かかる契約では、山が過ぎてから対応することになります。
4. 1〜2年で増える予定があるか
多言語ページ、採用サイトの分離、オンライン販売、予約受付、社内向けのファイル共有。予定があるなら、サブドメインをいくつまで作れるか、データベースをいくつ持てるか、独立した領域を追加できるかを見ます。予定がないなら、この観点は無視して構いません。将来を見越して大きめの契約を結ぶと、たいていは使われないまま費用だけが続きます。
サーバーの型で変わるのは、止まったときに誰が動くか
型は大きく4つに分かれます。違いが出るのは容量や速度ではなく、障害が起きたときの動き方と、社内に必要な技能です。
| 共用型 | VPS型 | 管理込み型 | 制作会社の一括管理 | |
|---|---|---|---|---|
| 障害時に最初に動くのは | 事業者。利用者は復旧を待つ | 自社または委託先。基盤より下だけ事業者 | 事業者が範囲を定めて対応する | 制作会社。連絡経路が1本で済む |
| 必要な社内の技能 | 管理画面を操作できる程度 | 構築と保守を継続できる人が要る | 管理画面の操作と、障害時の切り分け判断 | 不要。ただし中身を把握できないまま進む |
| 費用の出方 | 月額が読める。上げ下げも比較的容易 | 月額は読めるが、保守の人件費が別に乗る | 月額は高めだが、運用の人手が要らない | 制作費や保守費に含まれ、内訳が見えないことがある |
| 名義とデータの持ち出し | 自社名義で契約できる | 自社名義で契約できる | 自社名義で契約できる | 名義が制作会社になっている場合がある |
| 向く状況 | サイトとメールが中心で、触る人が1〜2人 | 独自の要件があり、保守できる人が複数いる | 停止が売上に直結し、社内に専任者がいない | 更新まで任せたい。ただし名義は自社に置く |
小規模な会社で実際に選ばれるのは、共用型か制作会社の一括管理のどちらかです。共用型は独自の設定変更ができず、同じ機器を使う他の利用者の影響も受けますが、その制約と引き換えに手間がかかりません。VPS型は自由度が高い代わりに、基本ソフトの更新、脆弱性への対応、証明書の更新を自分で回し続ける前提になります。担当者が1人しかいない状態でこれを選ぶと、その人が辞めた時点で誰も触れないサーバーが残ります。編集部としては、保守を担当できる人が社内に2人以上いない限り、VPS型は勧めません。
制作会社の一括管理は、手間の面では最も楽です。問題が出るのは、制作会社との関係が終わるときです。名義が制作会社になっていると、サイトのデータもドメインも自社の判断で動かせません。任せること自体は選択肢ですが、名義と支払いだけは自社に置いてください。
なお、サイトを何で作るかをまだ決めていない段階なら、サーバーの型より先にそちらを固めたほうが選択肢が絞れます。制作方式ごとの違いは小さな会社のホームページは何で作るべきかで、更新体制から逆算する形で整理しています。
契約前に確認するのは、スペックではなく運用の条件
比較サイトの表には載らない項目ばかりです。事業者のサイトを読むか、問い合わせて回答をもらいます。
バックアップは「取っているか」ではなく「戻せるか」
確認するのは4点です。自動取得の対象範囲(サイトのファイルだけか、データベースも、メールも含むか)、何日分または何世代を保持するか、復旧を自分で管理画面から実行できるのか事業者への依頼が必要で有償なのか、復旧完了までにどのくらいかかるか。
事業者側のバックアップは、事業者側の障害に備えたものです。こちらの操作ミスや、改ざんされた状態からの復元までを保証しているとは限りません。自社でも別に取る必要があるかどうかは、小規模企業に必要なバックアップはどこまでかの考え方で判断してください。
サポートは窓口の種類と、対応する範囲を見る
メールのみか、チャットがあるか、電話が使えるか。受付時間が平日の日中だけなのか。障害の発生状況を公開するページがあり、そこに過去の履歴が残っているか。履歴を残している事業者は、起きたことを隠していないという材料になります。
見落とされやすいのが対応範囲です。サーバーが動いているかどうかまでを見るのか、その上で動くソフトウェアの不具合まで相談できるのか。この線引きは事業者ごとに違い、トラブルが起きた最初の1時間で問題になります。
移転支援があるのは、たいてい「入るとき」だけ
移転を代行する仕組みを持つ事業者は増えましたが、対象になるのは自社へ移してもらう方向です。出て行くときの支援は基本的にありません。契約する前に、サイトのファイル、データベース、メールのデータを自分の手で一括して取り出せるかを確認しておきます。取り出せない契約は、事実上そこから動けない契約です。
SSLは、無料かどうかより更新が自動かどうか
証明書の期限が切れると、閲覧者のブラウザに警告が表示され、実質的にサイトが止まったのと同じ扱いになります。自動更新であれば放置しても切れませんが、手動更新の契約は、担当者が変わった年に切れます。取引先の要件で企業情報の確認を伴う証明書が必要な場合は別に用意することになるため、手続きの担当者も先に決めておきます。
名義と支払いを自社に置かないと、後で動けなくなる
技術的な条件をどれだけ詰めても、名義が自社になければ手が出せません。ここは選定と同時に決めます。
- 契約名義は法人名にする。 担当者の個人名で契約すると、その人が辞めた時点で正規の手続きで引き継げなくなります
- 支払いは法人カードか請求書払いにする。 個人カードでの支払いは、退職時だけでなくカードの有効期限切れでも止まります。更新の失敗は、サーバー障害よりも頻度の高い停止原因です
- 管理者用の連絡先と、二要素認証の受け取り先を1人に集中させない。 障害や更新の通知はここに届きます。共有できるアドレスを使い、受け取れる人を複数にしておきます
- 制作会社名義になっている場合は、移管を依頼する。 断られる合理的な理由は通常ありません。応じない場合は、その関係自体を見直す材料になります
あわせて、次の項目を1枚に記録しておきます。契約している事業者名、契約日と更新日、支払い方法、管理画面のURL、管理者アカウント、ドメインの登録先(サーバーとは別の事業者であることが多い)、SSLの種類と更新方法、DNSをどこで管理しているか。この1枚があるかどうかで、障害時の初動が変わります。
ドメインとサーバーを同じ事業者にまとめると日常の管理は楽になりますが、乗り換えのときは2つを同時に動かすことになります。分けておけばサーバーだけを移せる代わりに、管理先が増えます。社内に管理できる人がいないなら、まとめたほうが失念は減ります。
乗り換えは、切り替えの当日より前後の数日が難所
移転の手順は、新しいサーバーに一式を用意する、動作を確認する、DNSを切り替える、反映を待つ、旧サーバーを一定期間残す、という流れになります。作業そのものより、反映を待つ間の状態が問題になります。
切り替えの直後は、見る人によって新旧どちらに接続されるかが変わります。この間に旧サーバー側で送信されたフォームや注文は、新サーバー側には残りません。取りこぼさないために、切り替え前後は旧サーバー側の受信も確認し続けます。
メールが最大の難所です。切り替え中は旧サーバーに届き続けるメールがあり、新旧の両方を数日間見る必要があります。過去のメールをどう移すかも先に決めます。端末側のメールソフトで移すのか、サーバー間でコピーするのかによって、担当者と所要時間がまったく変わります。「サイトの移設」を依頼したつもりが、メールは作業範囲に入っていなかったという行き違いが起きやすい箇所でもあります。
投稿やお知らせを更新するサイトでは、データを移した後に更新が入ると新旧で差分が生まれます。移行の間は更新を止める時間帯をあらかじめ告知しておきます。SSLは移転先で取り直しになるため、切り替え直後に証明書が未発行のままだと警告が表示されます。
日程には避けたほうがよい条件があります。請求の締め日、繁忙期、キャンペーンの実施中は外します。金曜の夕方も避けてください。問題が出ると、事業者のサポートが動かない土日を挟むことになります。
旧サーバーの解約は、切り替えから最低でも2週間、メールを扱っているなら1か月ほど空けます。解約した時点で、戻す先がなくなります。ただし年契約は解約の申し出に期限があることが多く、その月をまたぐと使わないサーバーの費用をもう1年分払うことになります。契約の更新月と申し出の締切を先に調べてから、移転の日程を組んでください。
次にやること
いまサーバーを変えるかどうかにかかわらず、30分で終わる作業があります。前章に挙げた管理台帳の項目を、分かる範囲で埋めてください。埋まらない欄が、そのまま現在のリスクです。契約先が分からない、管理画面に入れない、支払いが誰のものか分からない。この3つのどれかに当たるなら、サーバーの比較を始める前にそこを解消します。
台帳が埋まると、乗り換えが要るかどうかも見えてきます。名義と支払いが自社にあり、バックアップから戻せることを確認できているなら、サーバー自体を変える必要はありません。揃っていないなら、事業者を変えるかどうかに関係なく契約を結び直す作業が発生します。
サーバー以外も含めて社内のツール全体を整理する段階にあるなら、小規模企業のITツールの選び方で、導入前に決めることと契約前に読む条項をまとめています。
よくある詰まりどころ
現在どこと契約しているのか分からない
会計データを開き、毎月または毎年、少額で引き落とされている支払いを探します。契約先はたいていここで見つかります。出てこない場合は、サイトの制作を依頼した会社に契約状況を照会します。返答が遅い、あるいは要領を得ない場合は、名義の確認を最優先にしてください。
制作会社と連絡が取れない、対応してもらえない
まずドメインの登録者情報を確認します。自社名義であればドメインは動かせるため、サイトを作り直してでも同じアドレスで再開できます。名義も先方で、サーバー上のデータも取り出せない場合は、公開中のページから復元できる範囲を見極めたうえで、作り直しを含めて検討することになります。この状態を避けることが、名義を自社に置く理由です。
プランを上げるべきか、事業者を変えるべきか判断できない
症状で分けます。特定の時間帯だけ遅い、アクセスが増えたときだけ落ちる、という症状ならプランの問題です。復旧に時間がかかる、サポートの回答が要領を得ない、必要な設定ができない、という症状は、同じ事業者の上位プランに移っても解決しません。
相見積もりの比べ方が分からない
金額を並べても比較になりません。バックアップの対象範囲と復旧の手段、サポートの受付時間と対応範囲、移転作業に含まれるもの、契約名義、解約の申し出期限を、同じ質問文にして全社に投げます。回答を横に並べると、答えが曖昧なままの項目が残ります。そこが、契約後にトラブルになる場所です。